理論・計算・実験を融合させ、最前線を切り拓く。
誰も見たことのないデータとの出会いを求めて。


小さいころから興味の対象は、一貫して理科系でした。特に、自然の事象について関心を持つことが多かったように思います。当時の天気予報は、今ほど確度が高くなかったのです。ですから「当たる予報官」(気象予報士制度は1994年から導入)になりたいなと思ったりしていました。父が教育関係者だったこともあり、研究者という仕事も将来の選択肢として意識していました。

高校から大学にかけて「新材料・新素材ブーム」がありました。そもそも紀元前数千年前の銅の精錬に始まり、青銅器、鉄器…と金属製造技術の発見と進展が、人類の発達をけん引してきたことは皆さんもご存知でしょう。新しい材料が社会に与える効果・影響力というのは、それだけ大きなものがあるのです。1980年代は、形状記憶合金や導電性ポリマー、高温超電導材料などの研究・開発が盛んに行われ、技術革新のひとつの原動力となってきました。そんなトレンドにあって、材料はおもしろそうだ、研究に携わりたいと自然に思いを巡らすようになりました。また当時、手がけていた研究課題がうまく進んだこともあり、就職ではなく、ドクター(博士後期課程)への進学を決心しました。思い返せば、それが研究者への“岐路”だったのかもしれませんね。

高校生や新入学生からは「大学ではとにかく早く実験をしたい」という話がよく聞かれます。若者らしい意気込みと積極性は素晴らしいと感嘆しますが、その前にまず専門的な基礎知識をしっかりと蓄える必要があります。いわゆる机上の学びですね。心躍るような取り組みではないかもしれませんが、その後の伸びしろをつくってくれる大切な鍛錬期間です。

そして、いざ実験に取り組み始めても、研究対象は目の覚めるような結果をすぐに見せてくれるわけではありません。日々、試行錯誤。ほとんどが思う通りにはいきません。しかし、予想と実験データが食い違う時には、「こうなるのはなぜだろう」「わからないけど、面白いな」と感じる好奇心、そしてもう一度、実験に向き合う不屈の精神が、研究には不可欠です。私も、粘り強く、自然の振る舞いの「なぜ・なに」を学生諸君と共有していきたいと強く願っていますし、それが大学ならではの研究なのだと信じています。

そんな私も「早く実験をさせてほしい」と渇望にも似た気分を味わったこともあります。ヘルシンキ工科大学(フィンランド)に研究員として派遣されていた折です。ここでは高温環境下に置かれるガスタービンの遮熱コーティングの研究チームに所属しましたが、アイデアの検討や計算(解析・シミュレーション)を徹底して行い、予想の枠組みを構築してから、最後に実験を行うのです。東北大学の場合は「研究第一」が伝統であり、積極的に実験を重ねることで、いわば最前線の地平を切り開いていくスタイルです。研究は、理論・計算・実験を融合させて進めていくものであり、どちらが良いとは一概に言えないと思いますが、異文化に触れられたことは貴重な体験でした。

(図/写真2)2000年、派遣先のヘルシンキ工科大学にて

(図/写真2)2000年、派遣先のヘルシンキ工科大学にて、川崎亮教授(中央、東北大学工学研究科)、Michael Gasik教授(右)とともに。当時、野村先生は、日本-フィンランド二国間共同研究プロジェクトにて、傾斜機能材料による遮熱コーティングに関する研究に従事。EUの大手装置メーカと共同で、耐熱性と耐久性の向上に取り組んだ。

前言で研究は、トライ&エラーの積み重ねと言いましたが、最先端研究の実験を繰り返すなかで、誰も知りえない特異な数値や結果との出会いがあります。研究者だけが味わえるまさに醍醐味ですね。そうした価値あるデータとの邂逅を求めて、私たち研究者は日々、地道な努力を続けていると言えます。その根底に流れているのは、科学技術を通じて人間の進化・向上に貢献したいという工学的スピリットです。

取材風景
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