興味・関心が、研究をドライブさせる力に。
知的好奇心を震わすテーマに出会ってほしい。


高校で指導してくださった数学の先生がとても素晴らしい方で、憧れのような気持ちを抱いていました。ですから大学院(博士課程)に進学するまでは、高校教諭(数学)になろうと考えていたのですね。実際、学部4年生の折には教育実習にも参加しました。しかし、研究が深まるにつれて、とてもおもしろくなってきて、時間を忘れて没頭するようになりました。当時私は、理論解析を基にしたモデリングによって、材料力学シミュレーションを行い、最適設計を探る研究に取り組んでいましたが、机上の試みが実験によって裏打ちされた時の達成感・充実感は何物にも代えがたいものでした。興味や関心が、研究・学びをドライブさせる力となることを知る一人として、学生さんにもいくつかの選択肢の中から、知的好奇心を刺激する研究テーマを選んでもらうようにしています。

その一つが「コットン」を強化材として利用した天然繊維強化複合材料の研究です。たまたま東日本大震災の被災農地で展開されている『東北コットンプロジェクト』※5の存在を知り、将来的にはそこで産出された綿を材料として活用することができれば、震災復興にもつながるのではないかと考えたことがきっかけです。コットンは、麻やケナフなど他の植物繊維に比べて柔軟性や弾力性に富んでいたり、撚り(より)がかかっていたりなど、材料として興味深い特徴を持っているんですね。また現在、炭素繊維やガラス繊維を強化材としてつくられた複合材料は、軽量で耐久性が高いなどの優れた特性を持つ反面、自然に分解しにくく、燃えにくいという難点があります。植物由来の天然繊維を用いた材料は、環境にやさしく、“土に還る”という利点がありますから、持続可能な社会づくりに向けて大きな可能性を持っているといえます。

私たちの研究室ではコットンのほかに竹(ミリオン・バンブー)も強化材として利用することを目指しています。綿花は栽培条件の検討を含め、種子から鉢植えで育てることから始めているので、研究室は緑いっぱいの癒しの空間になっています(笑)。コットンを使った複合材料づくりは、来年度から本学工学部の1年生を対象とした「創造工学研修」※6の課題として登場する予定です。“綿から最強のコンポジット(複合材料)をつくる!”取り組みで、実験や研究のおもしろさに開眼してほしいと願っています。

(図/写真2)ICTAM2012で座長を務める成田先生。

(図/写真2)ICTAM2012(国際理論応用力学会議、2012年8月19日~24日、北京)で座長を務める成田先生。「実は英語は得意とするほうではないのですが、研究のディスカッションに関しては問題ないですね。習得のコツを訊かれることも多いのですが、“必要に迫られて”が最大のモチベーションになるのではないでしょうか(笑)。あとは“習うより慣れろ”です」。

もちろん研究の面白味と魅力(魔力?)を感じられるようになるまでには、多くの試行錯誤が伴います。そして、その取り組みが誰も挑んだことのない最先端のものであればあるほど、独走者の孤独を味わうことになります。私も研究の相談をする相手がいない状況をしばしば経験しました。「がんばる気持ち」だけでは乗り越えられない壁にぶつかることもあります。私が心がけていることはワーク・ライフ・バランス、つまり仕事・研究と生活の調和です。さらに、わたし流の解釈を加えればWork hard, play hard.(よく学び、よく遊べ)となりますね。そうした姿勢から育まれる複数の視座が、デッドロックを解放し、新しい風穴を開けてくれると信じています。

日夜、研究・実験を繰り返していると、数百、数千のトライアル&エラーの中に美しいベストデータ、つまりチャンピオンデータが現れることがあります。「自然の深淵をのぞきたい」「真理を追究したい」という研究者の願望と野心に応えてくれる至福です。そうした輝きの瞬間を希求することも大切ですが、研究者という道を選んだからには社会実装や社会貢献を視野に入れた挑戦をし続けることが、重要な責務であり使命であると考えています。もちろん研究成果が実用化されるためには、マーケット、製造方法やコスト、経済的妥当性など、ひと筋縄ではいかないハードルをいくつも克服しなくてはなりません。社会環境やタイミングといった自分の力では変えられないものもあります。しかし、公共の安全性や快適性の向上、社会の発展のために尽力できることは、一人の人間としての純粋な喜びです。これからも学生さんと共に、“手ごわく、素晴らしい”研究の世界を思う存分味わっていきたいと思っています。

※5
東北コットンプロジェクト:東日本大震災による津波で稲作が困難になった農地でコットンを栽培、農家と企業が連携し、紡績・製品化・販売までを一貫して行うプロジェクト。持続可能な農業と、東北コットンを使った新事業の展開を目指している。
※6
創造工学研修:東北大学工学部が平成8年度から導入している、学部1年生を対象とした少人数教育の授業科目(工学部専門教育科目・選択・2単位)。所属学科によらず、120を超える研修テーマの中から自由に選択できる。専門によらない幅広い知識と、課題に向き合う積極性・創造力の育成を目標に掲げる。
取材風景
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