幅広い分野で期待される
応力発光の技術。


私がこれまで研究してきた「応力発光」とは、わずかな機械応力で発光する現象のことをいいます。

結晶が破壊する際に光を発する「破壊発光」はこれまで広く知られていたのですが、弾性変形によって繰り返し強く発光する応力発光は、私が名付けたもので、世界で初めて発見して1999年に報告し、応力発光体を作り出すことに成功しました。

応力発光の原理を簡単にいいますと、結晶固体に力がかかると結晶の格子がひずんで原子や分子などの相対位置が変わるのですが、物質によっては電子状態が大きく変わって遷移し、光を放つ現象を起こします。非常に複雑な現象なので、まだわからないことが多いのですが、理論と実験の両面から追及しているところです。

応力発光体は最初発見したものでは金属化合物の硫化物、酸化物、窒化物で、金属としては亜鉛、スズ、ストロンチウム、アルミニウム、ケイ素などがあります。そして応力発光材料は、圧電体、発光体、格子欠陥制御体の3つを兼ね備えている性質があります。ですから開発の際には圧電体に発光中心と格子欠陥を同時に付与する考えがひとつとしてあります。

最近では応力発光体は多くの複合無機化合物や、有機化合物まで発見されるようになっていますので、これからの発展が益々楽しみですね。

微弱な力で光に変換できるのも特徴で、現在では紫外から可視光、近赤外までの多色化も達成できています。色は電子の遷移レベルで変わりますので、求める光に応じたデザインをするのですが、その波長は結晶の構造でコントロールするか、組成でコントロールするか、サイズでコントロールするかという手法になります。

応力発光材料の開発は計算と実験の両輪で行います。コンピューターの発達は目覚ましいので、以前よりは開発の効率がよくなってはいますが、まだまだ計算はそこまで賢いとはいえないのが実際ですね。

応力発光の社会応用としてこれまでやってきたものは、発光体をナノまで粒子化するとともに、粒子を用いた薄膜やシート、塗料、塗膜を作り出し、応力発光によるセンサデバイスを開発しました。これにより、応力集中やひずみの可視化が可能になります。

具体的な使用例としては、ドローンのプロペラ開発時に、プロペラへの応力集中を検出してエネルギーの利用効率を高める設計を行うといったことがあります。そしてロボットや、車、飛行機などの構造体を開発時に効率化と安全性との両立の設計、あるいは人工関節の最適設計などに有用となっています。

また設計時だけでなく、橋などの社会インフラの構造物や、風力発電のブレードなどの劣化診断や余寿命の予測にも利用でき、外からは見えない圧力容器などの内部亀裂状態の診断も実現できています。

これから先も、IOT、エネルギー、環境、IT、インフラ、ものづくりなど幅広い分野での応用が期待されます。私は、発光体微粒子を体内に入れて光治療や光診断を行うという、夢のようなことまで構想しています。

応力発光は広く社会利用できるまでにまだ多くの課題がありますが、ひとつには標準化が必要と考えています。今後は非破壊試験における応力発光法の、用語も含めた国際標準化を目指しています。

(図/写真1)

応力発光の国際交流と発展のために組織した「応力発光と構造体診断国際会議」。第1回は福岡国際会議場で始まり、写真は第3回の懇親会(Hongkong)において、次期実行メンバー(Korea)と共に。第4回は当初予定からコロナのため延期してきましたが、いよいよ2023年12月に韓国で開催されます。

取材風景
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