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ダイオキシン類汚染土壌の高効率浄化法の開発

背景

 一般廃棄物(都市ゴミ)や産業廃棄物の焼却炉排ガス中のダイオキシン類濃度に対する規制が始まり、日本でのダイオキシン類総排出量は減少しつつある(厚生省の速報値(1999年5月))。 しかし、従来の排出による蓄積や、焼却灰の処理過程における流出などの原因によって、ダイオキシン類濃度の高い土壌が各地で確認されている(政府資料)。また、大規模な火災などを原因とする汚染なども懸念されている。 環境庁において経済的、効率的な浄化技術の緊急実証調査が開始(公募期間1999年5月28日〜6月28日)されるなど、ダイオキシン類汚染土壌を浄化する技術の開発は緊急を要する課題となっている。

従来の技術

 大きく分けると、1) 化学的処理法、2) 微生物を使用する方法、3) 熱処理法 がある。

1) は、例えば、ダイオキシン類を溶かし込む溶剤を用いて抽出したり、化学反応によってダイオキシン類の分子を変化させて毒性を無くしたりする方法
2) は、ダイオキシン類を栄養素として分解することができる微生物を注入したり、積極的に育成する方法
3) は、汚染土壌を高温にして、ダイオキシン類を分解したり、揮発(蒸発)させる方法

 技術的には、広範囲なPCB汚染を経験しているアメリカやダイオキシン類汚染に関心が高い西ヨーロッパ諸国が進んでいるが、1), 2) はまだ開発段階とされる技術が多い。 これに対し、3) は確実な方法であり、数種の技術が実用化されている。 例えば、コークスを燃料にする小型の溶鉱炉タイプの縦型炉を使用する方法や、セメントを焼成する際に使用するロータリーキルン炉と呼ばれる横形回転円筒炉を使用する方法である。 (前者は、違法投棄された豊島の廃棄物処理にも採用されている)しかし、ダイオキシン類を確実に分解・除去するためには900℃以上の高温で十分な時間加熱する必要が有るため、エネルギーを多量に必要とし、また大量土壌処理には、効率と処理コストに課題が残されている。

新しく提案する方法の概要

 本研究所素材再生プロセス研究センターでは、金属やセラミックスのリサイクル、再生技術に関する基礎的な研究を進めている。 有害物質の除去もこれに関連した重要な課題であり、その研究の一環として、ダイオキシン類汚染土壌の新しい浄化処理方法の開発を試みた。 今回、小型のモデル実験により、顕著な有効性が確認された方法の概略を以下に説明する。

 本方法の基本的な概念であり、基礎試験にも用いた装置の略図を図1に示す。
1) 汚染土壌を、数%〜10%程度のコークス粉と混合(混合率は土壌の水分量に依存する)して、高さ数10cm〜1m程度に積み上げる(充填層とする)。
2) 層の下部から空気を吸引する。
3) 層上部をガスバーナ等で加熱し、土壌に混合したコークス粒子に着火させる。
4) 空気の吸引を続け、数cmの厚さで形成する900℃〜1100℃の燃焼ゾーンを層の上部から下部へと移動させる。
5) 燃焼ゾーンが層の底部に達し、混合したコークスが燃焼終了することで、浄化処理が終わる。(層高50cmの場合の処理時間は20分程度)
 土壌に含まれるダイオキシン類などの有機物質は、燃焼ゾーンで分解されるか、あるいは気化し、燃焼ゾーン直下の低温層へ追い出される(かなりの割合(95%以上)が気化ではなく、実際に分解されると考えられるが、その割合など詳細についてはこれらからの研究課題である)。
 (汚染土壌のレベルに比較すれば極少量であるが、)排ガスに移行したダイオキシン類は、バグフィルターや湿式ダストキャッチャーなど従来の排ガス処理法の適用により除去可能である。 また、この方法により発生したダストは、再度、処理土壌中にリサイクルし、ダイオキシン類の除去操作を行うことにより、外部処理を必要としない。
 本方法の特徴として、以下の事項を挙げることができる。
1) 高温の燃焼ゾーンが必ず一定時間(数分間)土壌層を通過するため、確実にダイオキシン類を分解および除去できる。
2) 実際に加熱されている部分は、浄化土壌の一部に限られ、また、上層の熱は下層へと伝わるため、全量を加熱する方法と比較して大幅な省エネルギーが可能である。
3) 粘土質、砂状など幅広い土壌に対応でき、植物の根や落ち葉などを含む土壌処理も容易である。
4) 土壌を溶融するのではなく、単に熱処理するだけなので、埋め戻しや土壌改良材としての再利用も容易と考えられる。
5) PCBなど他の有害有機塩素化合物や、水銀、鉛などの高温で揮発する重金属の同時除去が可能と考えられる。
6) 効率的な大量処理が可能である(設備有効面積 80m2(4m×20mの比較的コンパクトな設備)において、1日当たり、1000〜2000トンもの土壌処理ができる)。

基礎研究結果の例

 実濃度として13100 pg/g、毒性等価濃度として330 pg-TEQ/g(pg: ピコグラム (1兆分の1グラム),TEQ: 毒性等価量 (Toxicity Equivalent Quantity))のダイオキシン類を含む土壌試料を使用して、種々の条件(コークス配合量、石灰石添加量、水分量)において実験を行った。 この中で、代表的な実験条件について、以下のような結果を得た。

表1.土壌中ダイオキシン類浄化実験結果
処理条件(+備考)ダイオキシン類実濃度実濃度除去率ダイオキシン類毒性等価濃度毒性除去率
土壌試料+コークス148 pg/g98.870 %3.5 pg-TEQ/g98.939 %
同上149 pg/g98.863 %2.6 pg-TEQ/g99.212 %
土壌試料+石灰石+コークス15.5 pg/g99.882 %0.027 pg-TEQ/g99.992 %
土壌試料+コークス
(土壌試料を予め低温乾燥)
5.3 pg/g99.960 %0.0053 pg-TEQ/g99.998 %
同上96.55 pg/g99.263 %2.0 pg-TEQ/g99.394 %
土壌試料+コークス
(低温乾燥土壌を予備造粒)
20.7 pg/g99.842 %0.036 pg-TEQ/g99.989 %

 いずれの処理条件においても、実濃度および毒性除去率は99.85 %以上の高い値であり、本方法が安定して高いダイオキシン類除去効率を示すことがわかる。 また、石灰石添加、予備乾燥、事前造粒など、処理方法を工夫すれば、処理後の試料中のダイオキシン類の毒性等価濃度を0.1 pg-TEQ/g以下という極めて低レベルにすることが可能である。
 本方法においては、装置のスケールアップによりプロセスの安定性が向上すると予測され、大量処理においても十分な浄化能力を示すものと考えられる。(実際の処理装置の概略を図2に示す)
 今後、種々の試料(土壌や焼却灰など)に対し、最適な浄化条件を求め、プロセスの最適化を目指す。また、Co-PCBs(コプラナーPCB:ダイオキシン類と同じような毒性を持つとされる化学物質)や鉛、水銀など重金属についても浄化技術の検討を行っていく予定である。
【備考】本研究で発生する排ガスには、1)排ガスダスト沈降槽、2)シリカゲル吸着層、3)活性炭吸着層 による三重の処理が施されている。

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