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貝沼・大森研究室|東北大学大学院工学研究科 マテリアル開発系 金属フロンティア工学専攻 創形創質プロセス学講座 計算材料構成学分野


TOPICS

マルテンサイト変態の低温異常―その普遍性と起源の解明

研究費名:日本学術振興会・基盤研究(S)
期間:平成22~26年度
研究組織:
代表:貝沼亮介 (東北大学多元物質科学研究所・教授)
分担:村上恭和 (東北大学多元物質科学研究所・准教授)
分担:大沼郁雄 (東北大学大学院工学研究科・准教授)
分担:大森俊洋 (東北大学大学院工学研究科・助教)

背景と研究目的

 マルテンサイト(M)変態を始めとした無拡散変態は、NiTi合金など多くの合金系で形状記憶効果や超弾性効果を示すことから、その基礎から応用に至るまで広く研究されてきた。しかし、加工性や形状記憶特性から現在までに実用化した形状記憶合金は実際上NiTiに限られる。NiTi 合金に欠落した特性としては、磁性と100℃以上での高温形状記憶があげられるが、液体 窒素温度以下の低温におけるM変態については殆ど研究されていない。
 最近、我々はNiCoMnIn系において強磁性母相から常磁性へのM変態を見出し、予め M相状態で与えた変形が磁場誘起逆変態で形状回復することを初めて明らかにした。さらに極最近、NiCoMnIn系磁性形状記憶合金を研究する過程で、約150KでM変態が突如停止するカイネティック・アレスト(KA)現象を見出した。図1は、KA現象を示す電気抵抗曲線である。
 本合金系ではM相の抵抗値が母相の5倍以上上昇するが、5Tでは150Kで突如変態が停止するため母相+ M相の2相状態となり抵抗値は中央付近にとどまる。さらに8Tの強磁場では、Ms温度が150K以下となりM変態が全く見られなくなる。さらに興味深いのは、5T下で冷却した後に磁場を落としても残留した母相は保持され、むしろ加熱中にM変態が生じる(加熱誘起M変態)ことである。また、母相が凍結された温度域で、等温M変態が確認された。以上は、明らかに相安定性だけでは説明できず、界面の動力学も含めた解析が必要であることを意味する。実際、図3に示す低温域における磁気抵抗(GR)効果の結果から、50K以下の温度では変態ヒステリシスが異常に拡大し、4.2Kではバースト的な非熱弾性型M 変態に類似した変態挙動となる。これは、50K以下の低温で母相/M相界面の移動度が著しく低下することを示唆している。以上の様にTiNiやNiCoMnInでは、M変態における前駆現象の異常や突然の停止・消滅、ヒステリシスの異 常等、ミクロ・マクロ両面での未解決な現象が多く残されている。
 そこで本研究では、低温域における異常現象の普遍性を調べるため実用NiTi系、メタ磁性Ni基系(NiCoMnIn等)に加え、高加工性CuAlMn系、強磁性鉄系(FeMnGa等)、高温・強磁性Co基系(CoNiAl等)、生体用Ti基系(TiNbSn等)について系統的な調査をする。具体的には、液体He温度以上の低温度領域において、(i)電気抵抗、磁気特性、変態潜熱などの基本物性や(ii)超弾性特性、兄弟晶界面の移動度等の機械特性を調査し、(iii)先進的な試料 ホルダー付透過電子顕微鏡により低温で磁場、応力を同時に印加しつつプレマルテンサイト組織や変態時における内部組織や結晶構造変化を観察する。また、(iv)熱力学的解析や組織シミュレーションにより変態挙動を考察する。

背景と研究目的

実験装置の導入

  1. PPMS 物性測定装置(9Tまでの磁場中で、電気抵抗、比熱、磁化の測定が可能)
  2. テンシロン極低温機械試験装置(ヘリウム温度以上で圧縮・引張試験が可能)
  3. 極低温TEM ホルダー(10K 以上の温度まで冷却し観察可能) 東日本大震災の影響で遅れたが、2011 年度中にやっと3装置の導入および調整を修了した。2012 年度から本格的に稼働予定である。
実験装置の導入

1. NiCoMnIn 合金の低温磁場誘起変態に関する研究

 母相とマルテンサイト相界面の移動度を調査する目的でNi45Co5Mn36.7In13.3 に対し約4ミリ秒幅の単パルス磁場を印加することで変態の応答性を調査した。図4は、180K においてパルス磁場を印加した場合の対応する磁場における組織を示している。本合金のマルテンサイト変態開始温度(Ms 温度)は約 230K であり、磁場印加前の状態はほぼ100%マルテンサイト相と なっている。常磁性のマルテンサイト相は、磁場印加により強磁性の母相へと逆変態し、(d) の 10T では完全に母相単相状態となるが、その後の磁場の除去により再度マルテンサイト相が 出現する。図5は、マルテンサイト相と母相のコントラスト差をプロットしたものである。この様なコントラスト変化から、180Kと100K におけるパルス磁場中逆変態終了磁場と正変態開 始磁場を求めた。(図5)約4ミリ秒幅の単パルス磁場では、定常磁場と比して約2倍の磁場 ヒステリシスが確認され、100K の方がより大きくなった。この様な応答性の遅れは、低温域で生じるカイネティックアレスト現象にも関連する異相界面の移動度の低さに起因すると考えられる。

1. NiCoMnIn 合金の低温磁場誘起変態に関する研究

[出典論文]
Xu, X; Ito, W; Katakura, I; Tokunaga, M; Kainuma, R, “In situ optical microscopic observation of NiCoMnIn metamagnetic shape memory alloy under pulsed high magnetic field”, SCRIPTA MATERIALIA 65, 946-949 (2011)

2. Cu-Al-Mn 合金の低温機械特性に関する研究

 Cu-Al-Mn合金における低温での超弾性特性を調査するため、主にMn濃度を調整して熱的にマルテンサイト相が出現しないぎりぎりの合金組成(Cu17Al15Mn(at%))を調査・決定した。その合金から直径2mmの線材を作製し、77Kで行った引張試験結果を図6に示す。試験方法としては、数%ごとに歪量を増加させながら繰り返して測定した。得られた超弾性の特徴としては、まず約 200MPa で応力誘起変態が始まり、2%歪を越えたところから方向きが上昇を開始するが、約8%の完全な超弾性歪を得た。ただし、その後の引張変形中8%を少し越えたところで破断した。この様に、Cu-Al-Mn合金では、室温に比して延性が低下するものの優れた超弾性特性が得られることが確認された。
 本合金について、77K以上の種々の温度で超弾性特性を調査した。応力誘起変態の臨界応力を温度に対してプロットしたのが図7である。クラジウス-クラペイロンの関係により右上がりの傾向が見られるが、150K 以下では次第に直線関係からずれて平坦になる。これは、0 Kに近付くにつれて変態エントロピー変化が0になるためである。しかし、以前我々が測定したNiCoMnIn合金では、図8の様に120~140K付近で、すでにほぼ水平になっており、CuAlMnの結果とは明確な違いがある。今後、この点を詳細に調査するために昨年度導入された装置における極低温域での実験を行う予定である。

2. Cu-Al-Mn 合金の低温機械特性に関する研究

[出典論文]
Niitsu, K; Omori, T ; Kainuma, R, “Superelasticity at Low Temperatures in Cu-17Al-15Mn (at%) Shape Memory Alloy”, MATERIALS TRANSACTIONS 52, 1713-1715 (2011)

3. Fe-Mn-Al-Ni 合金のカイネティックアレスト

 鉄系で超弾性を示す合金系は極限られている。その様な中で、最近我々は FeMnAlNi 合金においてbccからfccへの熱弾性型マルテンサイト変態を見出し、超弾性効果を確認した。図9は、Fe43.5Mn34Al15Ni7.5 の熱磁化曲線(500Oe中)を示している。母相は約 120℃にキュリー温度を持つ強磁性を示すが、マルテンサイト変態により磁化が低下する。この時、組織観察から変態は約 50K(約-220℃)で停止するカイネティック アレストが生じることが確認された。
 加工により100%マルテンサイト相にした状態で磁性を調査したところ、マルテンサイト相は、40℃付近にネール温度を持つ反強磁性であると判明した。

3. Fe-Mn-Al-Ni 合金のカイネティックアレスト

 図10 は、FeMnAlNi 合金および NiTi 実用合金(インセット)の超弾性特性を示す。FeMnAlNi合金は、広い温度範囲に渡り良好な超弾性特性を示すことが分かった。また、その応力誘起 変態応力をプロットすると、図11に示す様に他の合金系と比して1ケタ程度温度依存性の方向きが小さいことがわかった。今後、液体窒素温度以下の特性を調査して行く予定である。
図10FeMnAlNi 合金の超弾性曲線 図11FeMnAlNi合金の変態臨界応力の温度 インセットにはNiTi合金を示す依存性のむきが小さいことがわかった.今後,液体窒素温度以下の特性を調査して行く予定である。

FeMnAlNi 合金および NiTi 実用合金(インセット)の超弾性特性

[出典論文]
T. Omori, K. Ando, M. Okano, X. Xu, Y. Tanaka, I. Ohnuma, R. Kainuma, K. Ishida, “Superelastic Effect in Polycrystalline Ferrous Alloys”, Science, Vol.333, 68-71 (2011)