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環境に優しい鉄鋼材料創出教育プログラム

川渡セミナーを語る
〜 産学連携、そして人材育成で重要な役割を果たしてきました。〜

川渡セミナーの責任者であり、セミナーの初回からの様子を知る金属フロンティア工学専攻の日野光兀教授(現:東北大学名誉教授)に、 川渡セミナーのこれまでの歩みとその魅力を語っていただきました。

川渡セミナーは産学連携の先駆けなんです。

日野教授

この川渡セミナーは、1974年に当時の金属工学科教授不破先生が始められました。不破先生の前の教授の的場先生は大学を終えられてから富士製鐵(のちに八幡製鐵と合併し新日本製鐵となる)の研究所長になり、のち副社長になられました。この的場先生を中心にお招きしてセミナーを行ったのが最初です。当初から産学連携を考えていた、非常に珍しい試みでした。

そもそも、東北大学の金属工学科は最初から産業界とのつながりがあったのです。1923年、金属工学科は五講座で始まりました。その中の第一講座が鉄鋼精錬、鉄冶金が専門で、八幡製鐵の技師の方をお迎えして教授になっていただいたのです。ところが、東北には釜石製鐵しか工場がありませんでした。卒業しても就職先がありませんし、大学での勉強はできるが、産業界の勉強はできない。そこで、せっかくこのように企業と人的繋がりがあるのだから、それを生かして産学連携、しかも単なる研究発表ではなく、若手の育成を目指したセミナーを開こうということでスタートしたわけです。

当時ちょうど川渡セミナーハウスができたばかりでしたので、そこを会場にし、以来33年続いています。

最先端の技術をディスカッションする、世界でも注目の場。

当初は鉄鋼関連の研究をしている大学に呼びかけて参加者を募っていたのですが、5回目くらいから、企業の方も参加できるようにしました。その頃から、30人程度だった参加者が100人位に増えました。今は大学と企業が半数ずつくらいで、企業では研修の場として位置づけられているようです。発表も、通常の学会は一件あたり15分程度ですが、ここでは質疑応答も含めて1時間なんです。そして夜は寝泊まりする各セミナー棟ごとに、講師を中心に朝の3時ごろまでディスカッションを行う。 最近では知的財産権の問題がありますが、以前はそんなに厳しくなかったものですから、学会に発表する2、3年前の話なんかもでたりしましてね。そういった最先端の技術についてディスカッションする伝統が続いているのです。

日本の鉄鋼技術というのは世界一ですから、このセミナーは世界でも注目されているんです。10周年ごとに記念パーティーを行なっているんですが、30周年の時は外国の著名な方々もお招きし講演していただきました。

日本一の鉄鋼研究と鉄鋼産業の現場から、最新の話題を追い続けます。

17回目から川渡セミナーを的場記念セミナーと呼ぶようになり、的場メモリアルレクチャーという講演会をすることにしました。その前の年に亡くなられた的場先生のお名前を残したのです。このメモリアルレクチャーは、日本を代表する鉄鋼企業の、副社長や研究所長、工場長などの方々にお願いして毎年行なっています。ボランティアでお願いしているんですが皆さん喜んで引き受けてくださいます。

講演者は、会社ですと部長から取締役といった方々が中心です。もちろん東北大学のOBも大勢いらっしゃいます。東北大学は、材料研究では日本では圧倒的に大きい大学です。金属材料研究所、多元物質科学研究所も含め教授が現在42人おります。これだけの規模だからこそ、このようなセミナーを行うことができるのです。

以前は製銑(高炉で鉄鉱石を溶かして鉄の成分を取り出す)と製鋼(転炉で不純物を取り除く)の二つのプロセスを一年ごとにセミナーのテーマにしていたのですが、その後は自動車の鋼板など製品まで対象にしたものがテーマとなっています。時代とともに分野が広がったということですね。

環境問題も常に話題に入っています。日本のCO2排出量の1割、産業別順位で言えば3番目に多いのが鉄鋼業なんです。京都議定書で日本も世界に向けてCO2の削減を約束していますが、日本の鉄鋼会社は、世界で一番削減しているんです。 例えば自動車のガソリン消費量、これは車体の重さで決まります。車は衝突した時に搭乗者を守るために強度を保たなくてははならない。この、軽くて薄くて強度の強い金属というのは、日本の鉄なんです。そういった技術についても、このセミナーで取り上げられてきています。

ここで育った若手が企業の中心に。ボランティア精神に支えられ続いています。

夜の会は非常に面白いです。夕方までのセミナーが終わりまして、川渡ですから、温泉に行ったり、夕食にバーベキューをしたりします。その後、各セミナー棟では、ビールを飲みながら、講師を囲んで率直に疑問をぶつけるわけですよ。これが非常に刺激となるのです。普通、会社に入社して、若手が副社長にお目にかかる機会なんてそんなにないでしょう。ところがこのセミナーではそれができる。 こんなセミナーは他にないですよ。

かつてセミナーを受ける側だった若手が、のちに講師側になることも大変多いです。私も第一回目の時はまだドクターの学生でした。講師の方々はのちに社長や研究所長などになられた方も非常に多いです。ここで育った方々が、企業の中心になっているということです。

学生の就職先は半導体やIT関連が増えてきている傾向にあるようですが、ここ東北大学だけは、ずっと鉄鋼が人気です。 セミナーを受けた学生の約7割は、鉄鋼業界に就職しています。やはり、非常に影響を受けるようですね。

このセミナーは学生のボランティアに支えられています。私も学生の頃はやっていました。いろいろな手配、当日の買い出し、学生ががんばってくれてるんです。今時、非常に珍しいですよ。

お陰でセミナーの参加費は通常の学会の五分の一程度です。宿泊も大学の施設を利用していますから。ただ、定員があるので、現在の参加者数100人で一杯になってしまいます。もし会場を他に借りて開催するとなると参加者は増えるでしょうが、いまと同じ費用では運営できないでしょうね。

(平成19年1月17日取材)

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