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環境に優しい鉄鋼材料創出教育プログラム

東北大学にしかできない教育ー環境に優しい鉄鋼材料創出教育プログラム

本プロジェクトのリーダーである金属フロンティア工学専攻の石田清仁教授に、 このプロジェクトの意義とその成果についてお聞きしました。

鉄鋼と環境問題は、非常に関連が深いのです。

石田教授

鉄鋼業界は最近非常に上向いてきているのですが、学生にはITやナノテクなどが人気がありますし、「なぜ今更鉄鋼なのか?」という反応もあります。 しかし鉄鋼はまだ研究課題がたくさんあるのです。 環境という点で言えば、鉄は1t製造するのに同じぐらい多量のCO2を排出します。 京都議定書を遵守するには、いかにCO2の排出を少なくして製造するか、鉄鋼メーカーも配慮しないといけない。 そのためにコンピュータなどのハイテク技術を駆使する必要があるわけですが、実はそのハイテクと環境の最先端を行くのは日本です。

鉄は「ローテクだけどハイテク」。鉄をつくるには一杯コントロールするファクターがある。 成分管理を始め、温度や時間管理、圧延するなら圧延の条件。 だからローテク。ただしそれぞれのプロセスで、最適値を見つけなければならない。 そこがものすごいハイテクなのです。他には簡単に真似できません。

「ものづくり」ですから、やってみないとわからない部分はありますが、 コンピュータ、力学、物理、化学、あらゆる科学を駆使して最適なプロセスをみつけなければなりません。 これは、学生の環境に対する意識の教育対象としては、最適なんです。

「ものづくり」の先生である企業に学ぶ意味。

学生を実際に「ものづくり」をしている企業に派遣し、鉄鋼材料がどのように つくられているか、あるいはその鉄鋼材料が抱えているいろいろな課題が どのような状況なのか、自分自身の目で見ることに、意義があると思います。

これまでのインターンシップと違い、 このプログラムでは、こちらからも費用を出し、そして鉄鋼がかかえているいろいろな環境問題、 その中で学生の教育になるような体験をさせて欲しいと目的を明確にしています。 参加する学生もある程度の専門知識を既に持つ修士課程の1年もしくは博士課程の学生です。

でも、残念ながらすべての学生を派遣できるわけではありません。 そこで企業の方々に来ていただいてセミナーをしていただいております。 企業は「ものづくり」の先生です。 本多光太郎が実学尊重と言いましたが、やはり実際にものをつくるのが大事なんですよ。 大学において我々は基礎的なことは教えられますが「ものづくり」の知識を持っているのは企業です。 だから鉄鋼メーカーの方々を主体に講師として来ていただいて、山積している環境問題、特にCO2の問題なども含めて、「ものづくり」の話をしていただく。 大学で我々からは基礎、企業からは実際の「ものづくり」を学ぶことができれば、学生がのちに就職した時に、 自分自身の血となり肉となっているのを実感するのではないでしょうか。

こうして「ものづくり」に関心のある学生を輩出していく。 鉄の研究が日本で一番盛んである、東北大学でしかできないプロジェクトです。

東北大学マテリアルでしかできない、鉄鋼の教育体制。

私は材料の組織が専門なんですが、鉄は その組織がコロコロ変わるしバリエーションも豊富です。 セラミックスは鉄の様に組織が大きく変化することはまずありませんが、 鉄は状態によって磁石にくっついたりくっつかなかったり、柔らかくなったり固くなったり。 それは中の組織が変わるから。 材料の基本的なことを知るのに非常に適しています。

しかし、一方、鉄の研究は既に成熟したものと見なされている部分があります。全国の大学から鉄の研究をする研究室が減り、このままでは衰退する一方です。 鉄鋼は日本の一つの「コメ」です。国を支えていく上で我々がやらなければいけない研究なのです。そこで、企業の方々と一緒に研究する組織ということで先進鉄鋼教育・研究センター(ARECS)を立ち上げました。(ARECSについての詳細はこちらのページをご覧ください)するとその後、ぐんと共同研究のテーマが増えました。 そうなると、学生が鉄の研究をするチャンスが増えるんです。そして、鉄は研究しはじめると面白いんです。こうして産学連携で学生を育てていき、ユニークな教育プロセスとして人材を育成していくのが いいのではないかと考えております。

ARECSは研究がメインのセンターですが、 企業でのインターンシップの体験では、ある程度の関心と専門知識を持った学生が 環境問題という点から自分の研究を考える機会となる。 お互いがうまく総合的に結びついています。 我々も企業に行ったときにディスカッションできる。

また、30年以上の歴史がある産学連携のセミナーで、川渡セミナーがあります。(川渡セミナーについての詳細はこちらのページをご覧ください)

川渡セミナー、インターンシップ、ARECS、三つ揃っていることによって、 学生の教育に対しても、企業に対してもお互いに補完しあうことができるのです。

インターンシップの経験は学生を成長させました。

インターンシップに参加した学生は、皆何かしら成長して帰ってきました。ある学生は最先端の開発研究にかかわる体験をしてきました。 普通のインターンシップで、最先端なんて見られないでしょう。企業が信頼してくれて、学生にそういうテーマを与えてくれたんです。自分が研究していることと関係があり、しかもそれが最先端にあるということを 実感できるのは非常に刺激的です。まさに、大学ではできないことです。

事前に、インターンシップに行く学生が研究しているテーマも協力企業に周知しています。 専門知識を持っているわけですから、頑張るでしょうね、彼らも。 意欲も湧くでしょうし。みんなプライドは持ってます。

大学を離れて会社の中でチームの中に属し、自律やけじめ、仕事のやり方、会社での目標達成や価値観、いろいろ学ぶというのも非常にいい経験だと思います。

今後も、企業側の意見も聞いて、お互いにブラッシュアップしていいプロジェクトに していきたいと考えています。

(平成19年1月17日取材)

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