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研究成果
外部電源不要で航空・宇宙機器の損傷を検知
-き裂の進展を電波送信間隔から読み取る自立型CFRP構造を開発-
【発表のポイント】
- 世界で初めて、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)のき裂長さを「電波送信間隔」だけから定量的に読み取ることに成功しました。
- CFRPと鉛フリー圧電 KNN–エポキシを積層した独自構造により、振動だけでLED 点灯やIoT無線送信を駆動できる自己発電型材料を実現しました。
- き裂が進むほど送信間隔が伸びる新現象を発見し、そのメカニズムを力学解析と電気エネルギー理論から解明しました。
- 航空・宇宙機器、風力発電ブレードなど、大型構造物の「外部電源ゼロ」自立型ヘルスモニタリングへの応用が期待される革新的技術です。
【概要】
CFRP は、高比強度・高比剛性(注1)を有し、航空機やロケット、人工衛星などに広く利用されています。一方で、CFRP は金属のような塑性変形(注2)を示さず、内部に生じたき裂や層間はく離は外観から見えにくいという課題があります。現在は、こうした内部損傷を確認するためには超音波探傷などによる検査を行っており、多大な時間と人的コストを要しています。
東北大学大学院環境科学研究科(工学部材料科学総合学科)の王真金助教、成田史生教授らと日機装株式会社(以下、日機装)の研究グループは、英国リーズ大学の Yu Shi 教授と共同で、CFRP の損傷を自ら検知する機能を付与した複合材料を開発し、世界で初めて、CFRPのき裂進展を「電波送信間隔」から定量的に読み取ることに成功しました。
本成果は、振動を電気エネルギーに変換することで自己発電を行い、CFRP の損傷程度を定量的に把握できるモニタリング技術です。材料そのものが自己発電・自己診断・無線送信を兼ね備える「完全自立型」複合材の実現に向けた大きな一歩であり、航空宇宙分野を中心に多くの産業での活用が期待されます。
本成果論文は、2026年1月9日にスマート材料・ナノ材料分野の国際学術誌International Journal of Smart and Nano Materials に掲載されました。
【研究の背景】
CFRPの内部損傷を早期に、かつ省人化して検知するためには、多数のセンサや電源供給のための配線が必要ですが、重量増加・信頼性低下・メンテナンス負荷が問題となります。特に航空宇宙環境では電力供給が制限されるため、外部電源に依存しない自己診断機能を備えた材料の実現が強く求められてきました。
さらに、近年開発が進むUAM(注3)などの新たなエアモビリティは、無人での運用が計画されており、運航中の異常をリアルタイムで監視する仕組みの必要性が一層高まっています。
こうした背景のもと、東北大学と日機装は、構造ヘルスモニタリング(SHM)(注4)機能を付与した航空宇宙向けCFRP製品の開発を目的として共同研究を開始しました。本共同研究では、材料自体が発電し、自らの損傷を検出・発信する機能を付与した次世代の複合材料の開発を目指しています。
【今回の取り組み】
本研究は、東北大学 大学院環境科学研究科(工学部 材料科学総合学科)の王 真金 助教、成田史生 教授らの研究グループが中心となり、日機装、ならびに英国リーズ大学の Yu Shi 教授との共同研究体制のもとで推進されました。航空宇宙分野で求められる実用性と学術的妥当性を両立させることを目的とし、基礎研究から応用展開を見据えた連携体制を構築しています。
東北大学とリーズ大学は、要素技術の提供(電力を発生させる鉛フリー圧電ニオブ酸カリウムナトリウム(KNN)–エポキシ層)、供試体の製造、SHMシステム設計を担当しました。一方、日機装は、CFRP 製航空機部品の製造で培った知見をもとにした研究コンセプトの立案、供試体の製造、SHM システム設計において重要な役割を担いました。
このような役割分担のもと、産学および国際連携による研究体制が構築され、航空宇宙分野への適用を見据えた構造ヘルスモニタリング技術の基盤が整えられました。
本研究チームは、CFRPに鉛フリー圧電KNNナノ粒子を分散したエポキシ層を積層し、曲げ振動により発生する電気エネルギーに着目し、本技術をCFRPの内部損傷検知に応用できないかを検証しました。
検証方法として、無線送信機を駆動する自立型複合材料の試験片を試作し、その試験片に人工き裂を挿入、振動下での電力生成と無線送信挙動を詳細に評価しました。その結果、き裂の長さが伸びるほど送信間隔が長くなる線形関係が明確に観察されました。これは、き裂の進展によってCFRP–圧電層間の応力伝達が低下し、圧電層に蓄えられるひずみエネルギーが減少するためです。
本研究では、曲げ応力、ひずみエネルギー、発電量、送信間隔のつながりを理論的に解析し、送信間隔Δt が(1−a/L)−3に比例する関係を理論的に導出し、さらにその一次近似が実験で観察されたほぼ線形の関係を説明することを明らかにしました。ここでa はき裂長さ、L は試験片長さです。実験結果と高い精度で一致し、送信間隔を計測するだけでき裂進展量を定量的に推定できる世界初の技術であることが示されました。
特筆すべき点は、この自己診断機構が外部電源、電池、構造外配線を必要としないことであり、材料固有の力学応答だけを利用して損傷の定量評価を可能にしたことです。これは、軽量化・省メンテナンスが求められる航空・宇宙機器などに特に適しています。
図1. CFRP/KNN 複合材料の概略図(材料構成と層構造)
図2. LED 点灯のための充電・放電回路の構成。
図3. 無線一体型デバイスを駆動する回路の概略図。
図4. (左)IoT 無線デバイスが発信する電波の送信間隔と(右)き裂長さと電波送信間隔の関係。
【今後の展開】
今後は、実機スケールのCFRP パネルや航空機部材への応用に向け、KNN–エポキシ層の配置の最適化を検討し、センサ統合型構造の長期耐久性評価、通信方式の最適化などについてデモ製品での実証を進めてまいります。将来的には、航空・宇宙機器、風力発電ブレードなどの振動環境下に適用し、完全自立型SHM システムの社会実装を目指します。
【謝辞】
今回の研究成果の一部は、科学研究費助成事業 基盤研究(A)(22H00183)の支援を受けて得られたものです。またKNN は日本化学工業株式会社より提供を受けました。
【用語説明】
比強度・比剛性とは、材料の強度・剛性をその材料の密度で割った値。これらの値が高いほど軽量でありながら強度・剛性が高い材料であることを示す。
負荷した外力を取り除いても元の形状に戻らない変形。永久変形とも言う。
電動垂直離着陸機(eVTOL)に代表される、都市部の低空域を飛行し効率的な移動を実現する次世代航空モビリティ。
構造物にセンサ類を取付け、そのセンサから取得した情報を基に構造物の状態を診断する技術。
【論文情報】
タイトル:
From Vibration to Information: Self-Powered Crack Detection and Wireless Communication in Carbon Fiber Reinforced Piezoelectric Nanocomposites
著者:
Yuki Sueda, Zhenjin Wang*, Yaonan Yu, Yusuke Watanabe, Sato Hoshiki,Ryozo Ohiwa, Yu Shi, Hiroki Kurita, Fumio Narita
*責任著者:
東北大学大学院環境科学研究科 助教 Zhenjin Wang
掲載誌:
International Journal of Smart and Nano Materials
DOI:
10.1080/19475411.2025.2610182
URL:
リンク先:
東北大学