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研究成果

樹皮資源を活用した高バイオマス複合材料の開発
-力学特性に基づく生分解評価手法を確立-

【発表のポイント】

  • 未利用の樹皮資源を有効活用し、樹皮を60wt.%(注1)含有する資源循環型の高バイオマス複合材料を開発しました。
  • 引張強さの低下と生分解度の間に指数関係が成立することを実証し、力学特性の変化から生分解の進行を定量評価できることを明らかにしました。
  • 分子鎖切断理論に基づく力学−生分解連成モデルの定式化に初めて成功しました。
  • 初期段階では十分な電気絶縁性能を示し、一定期間機能を保った後に分解する生分解性エレクトロニクス材料(注2)として、農業用資材や使い捨てセンサなどへの展開も期待されます。

【概要】

プラスチックごみによる環境負荷が世界的な課題となる中、生分解性材料や再生可能資源を活用した材料開発が強く求められています。一方で、森林資源の利用過程で大量に発生する樹皮は、十分に活用されないまま廃棄処理されているのが現状です。

東北大学大学院環境科学研究科博士課程のRova Lovisa 大学院生(JSPS 特別研究員)と、王真金助教、栗田大樹准教授、成田史生教授(工学部材料科学総合学科兼担)は、こうした課題に対し、樹皮を60wt.%含有する生分解性複合材料を作製し、分解の進行と力学特性の変化を同時に捉える評価手法の構築を試みました。

コンポスト(注3)および屋外土壌環境下での試験の結果、引張強さの低下と生分解度の間に指数関係が成立することを見いだし、分子鎖切断理論に基づくモデルによってその挙動を説明しました。また、本材料が初期段階では十分な電気絶縁性能を示すことから、一定期間機能を維持した後に分解する材料設計が可能であることを示しました。本研究は、生分解性材料を「どの程度分解したか」だけでなく、「いつまで機能するか」という観点から評価・設計する新たな方向性を提示するものです。

本研究成果は2026年1月20日、材料の劣化や分解現象を扱う専門誌 npj Materials Degradation に掲載されました。

【研究の背景】

近年、プラスチック製品の使用後処理や自然環境中への流出が深刻な社会問題となっており、材料設計の段階から分解挙動を考慮した持続可能な材料開発が求められています。一方、森林資源の加工過程で発生する樹皮は、十分な付加価値が与えられないまま廃棄・焼却されることが多く、資源としての有効利用が進んでおりません。さらに、生分解性材料の評価は主に質量変化や二酸化炭素発生量に依存しており、実使用環境における分解挙動と機械的健全性を結びつけた評価手法は十分に確立されていない状況です。

【今回の取り組み】

本研究では、森林廃棄物として十分に活用されてこなかった樹皮資源に着目し、分解挙動と力学特性の関係を明らかにすることを目的として、樹皮を60wt.%含有する高バイオマス複合材料を作製しました。図1 に示すように、樹皮と生分解性プラスチックPBS(注4)を溶融混練および圧縮成形により複合化し、断面観察および引張試験を通じて材料構造と基本的な力学特性を評価しました。その結果、高い樹皮含有率にもかかわらず、成形体としての機械的自立性を有することを確認しました。

次に、コンポスト環境下で生分解試験を行い、生分解の進行に伴う引張特性の変化を詳細に調査しました。図2 は、生分解度の増加に対して引張強さの保持率が指数関数的に低下することを示しており、力学特性の変化から生分解の進行を定量的に評価できる可能性を明らかにしたものです。この実験結果を基に、分子鎖切断理論に基づく力学−生分解連成モデルを構築し、材料劣化の力学的挙動を理論的に説明できました。

さらに、実使用環境を想定し、屋外土壌中における長期埋設試験を実施しました。その結果、土壌中でも時間の経過とともに引張特性が段階的に低下することが確認され、コンポスト試験で得られた力学特性と生分解度の関係を用いることで、図3 に示すように、土壌中における生分解の進行を推定できることを示しました。これにより、実環境下での分解挙動を力学的指標から評価する新たなアプローチを提案しました。

そのほか、本材料の応用可能性を検討するため、電気絶縁特性の評価を行った。図4 に示す部分放電試験の結果から、本複合材料は初期段階において十分な電気絶縁性能を有することが確認されました。この特性は、一定期間機能を維持した後に分解する生分解性エレクトロニクス材料としての利用可能性を示すものであり、農業用資材や使い捨てセンサなど、一定期間の機能発現と使用後の環境分解が求められる用途への応用が期待されます。

図1. 樹皮−PBS 複合材料の作製と構造。(a)粉砕した複合材料ペレットの外観、(b)引張試験に用いたダンベル形試験片の寸法および試験片外観、(c)作製した複合材料断面のデジタル顕微鏡像。

図2. 生分解度と引張弾性率・引張強さの保持率との関係。

図3. 屋外土壌中における生分解の進行推定。

図4. 樹皮−PBS 複合材料の電気絶縁特性、(a)空気中、(b)絶縁油中における電気絶縁挙動。

【今後の展開】

本研究で示した力学特性に基づく生分解評価の考え方は、樹皮−PBS 複合材料に限らず、他のバイオマス系複合材料や生分解性ポリマーにも適用可能です。今後は、充填材の種類や含有率、成形条件を変化させることで、分解挙動と機械的性能の関係を系統的に整理し、材料設計指針の確立を目指します。

また、屋外環境や水環境など多様な使用条件における分解挙動の評価を進め、実使用を想定した寿命設計や時間制御型分解機能の高度化を図ります。これらの成果を通じて、農業資材や一時使用型デバイスなど、環境負荷低減と機能性を両立した持続可能材料の社会実装につなげていく予定です。

【謝辞】

今回の研究成果の一部は、科学研究費助成事業 特別研究員奨励費(25KJ0588)の支援を受けて得られたものです。また樹皮はチャネルオリジナル株式会社より提供を受けました。

【参考文献】

L. Rova, L. M. Pandey, M. M. Bashar, Z. Wang, H. Kurita and F. Narita, Designed to Disintegrate: A Mechanical Framework for Biobased Biodegradable Polymer Composites, MechanoEngineering 1 (2026) 010802.
https://doi.org/10.1063/5.0287995

【用語説明】

(注1)wt. %

全体の重さに対して、ある成分が何%含まれているかを示す値。

(注2)生分解性エレクトロニクス材料

役目を終えると自然に消える電子材料。一定期間またはある条件下(例えば水・熱・光・pH・酵素など)で消失するように設計された電子材料。

(注3)コンポスト

有機物を微生物の働きにより発酵・分解して作製した堆肥。

(注4)PBS

ポリブチレンサクシネート。微生物によって最終的に水と二酸化炭素に分解される生分解性プラスチック。

【論文情報】

タイトル:
Evaluating and Interpreting Biodegradability of a Tree Bark– Based Green Composite through Tensile Properties
著者:
Lovisa Rova, Zhenjin Wang, Hiroki Kurita*, Fumio Narita*
*責任著者:
東北大学大学院環境科学研究科 准教授 栗田 大樹、教授 成田 史生
掲載誌:
npj Materials Degradation
DOI:
10.1038/s41529-026-00740-9
URL: