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領域の概要
 
領域の目的
ATP(アデノシン三リン酸)は生命系のエネルギーの供給と需要の媒体であるが、その有効性の真の理解、すなわち、化学-力学エネルギー変換の分子論は未確立である。本領域は、物質科学と生命科学の両方にまたがる根本課題に取り組む。生命系存続の環境母体である「水」を主役とし、構造論・機能論に立脚した新しいエネルギー論の分子的基盤構築を目指し、既存の概念にとらわれない学際的研究領域を新たに開拓する。このためには、異なる分野の「融合」による新たな方法論の展開と次世代育成が不可欠である。計画研究のほかに幅広い分野からのユニークの公募研究を糾合して、理論的研究と実験的研究とを緊密に組織化して推進する。
領域研究の背景-「水」の重要性
生命系をエネルギー論的に見ると、エネルギーの絶えざる供給と需要のダイナミクスである。そのエネルギー需給の媒体分子がATP(アデノシン三リン酸)である。ATPがADPと無機リン酸Piへ加水分解される過程あるいは逆反応として合成される過程では、大きな自由エネルギー変化(“ATPエネルギー”と略記)を伴う。驚くべきことに、ATPが発見されて80年、そのエネルギー媒体としての中心的な役割が提唱されて60年以上が経過するにもかかわらず、“ATPエネルギー”の起源に関して、実験と理論による厳密な検証を受けた分子論は存在しない。そればかりか、生化学・生物物理学のようにエネルギー論と直接かかわりをもつ分野のみならずライフサイエンス全般においても、“ATPエネルギーの起源”を「ATP分子構造自体の不安定性」とする説が確立された事実のように扱われている。この憂慮すべき状況にある最大の理由は、地球上の生命系の環境母体である「水」と生体分子との相互作用に関する実体論的認識の希薄さであると考えられる。このことは、DNA分子を構成する塩基間の相補的水素結合が遺伝情報の複製・転写の基本的相互作用であることが分子論的に確立されていることと対照的でさえある。
目指すところ
本領域の研究目的の達成のためには、幅広く異なる分野の「融合」による新たな方法論の展開が不可欠である。溶液化学・統計物理学・生物物理学・生物化学の研究者を糾合し、理論的研究と、理論への枠組み提示と検証を行う実験的研究(一分子計測、反応熱の精密測定、誘電分散による水和状態解析など)とを緊密に組織化して推進する。一分子計測から溶液論・熱測定にまたがる融合研究の進展は、構造・機能論との有機的連携によって、分子レベルの理解を伴った、新しく、より高いレベルのエネルギー論を拓くことが期待される。