東北大学 大学院工学研究科・工学部 マテリアル・開発系

プレスリリース

2007年

閉じたき裂の検出を可能にする超音波映像装置SPACEの開発
―疲労き裂や応力腐蝕割れで問題となっていた計測誤差を低減し原子力保全などに貢献―

2007年7月7日(河北新報)、7月9日(日刊工業新聞)、7月29日(読売新聞)

 東北大学未来科学技術共同研究センター山中一司教授、同産学官連携研究員小原良和氏、工学研究科三原毅准教授は、原子力設備などの安全を確保する精密な超音波計測装置として、き裂(ひび割れ)評価のためのサブハーモニックフェーズドアレイ SPACE(=Subharmonic Phased Array for Crack Evaluation)を開発した。CO2を排出しないため再注目されている原子力発電所において、超音波探傷によるき裂の測定値に最大9mmもの誤差があることが過去に報じられた。しかし閉じた疲労き裂に対しSPACEを用いると、従来法で15mm以上あった誤差を1mm以下に低減できた。この技術は、原子力設備などの安全確保に必須のものとなる可能性があり、技術の詳細は7月に米国で開催される定量的非破壊評価に関する国際会議で公開される。

背景

 残留応力や酸化膜があると一度閉じるが、応力が作用すると進展するおそれがあるき裂がある。超音波探傷法はき裂検査に有効だが、このようなき裂では十分な精度が出ない。しかしこのようなき裂は独特の共振を示し、入射超音波の周波数がその倍の周波数に近いと、入射超音波の半分の周波数に共振振動を引き込むことで、サブハーモニック共振と呼ばれる現象を起こす。この現象自体は知られていたが、き裂の深さ測定に使われていなかった。この振動が十分な振幅になるまでに時間がかかりすぎたためである。

図1 SPACEの原理図と配管における使用状況

図1 SPACEの原理図と配管における使用状況

研究成果

 SPACEでは、単結晶振動子を用いてサブハーモニックがすぐに強くなるような超音波発生器を作製し(写真右側)、周波数f/2の振動が発生する瞬間にすばやく捉えて解析することで、閉じたき裂の深さ方向の映像化を行う(図1)。従来の超音波探傷法では過小評価したき裂の深さを正確に測れるようになった。

 図2はアルミ合金の板に適用した結果である。開いたき裂(上)は従来法で良く見えるのに対し、閉じたき裂(下)は従来法では見えず、15mm以上もの誤差があった。SPACEで初めて正しく評価できた。このような場合に、SPACEは必須である。

 この成果を受けて、原子力発電所の再循環系配管などでも使用されているステンレス鋼(SUS316L)の実機に近い厚さ(40mm)の部材の閉じたき裂にも適用した。その結果、き裂が100MPa以上の閉口応力で閉じており、従来法では過小評価してしまうが、SPACEで深さを正確に計測できた。SPACEは、従来法の機器と相性が良いため、従来機器を置き換えることに困難は少なく、発電施設や鉄鋼・重機産業の設備・機器の安全性確立に貢献できる。

 有機分子の構造欠陥を検出する一般的な方法はなく、この技術を用いることにより、例えば、薬剤の製造工程を監視することによる薬害防止や、製造における精製工程の違いに基づく麻薬の生産工場および流通ルートの解明が可能となる。さらに、DNAの欠損により発症すると考えられている癌などの早期発見が期待される。

図2 厚板のき裂への適用結果(アルミ合金)

図2 厚板のき裂への適用結果(アルミ合金)