東北大学 大学院工学研究科・工学部 マテリアル・開発系

プレスリリース

2010年

純酸素による炭化水素からの水素製造技術 酸素透過膜の長寿命化に成功

2010年1月4日(日本経済新聞)、2010年1月1日(科学新聞)、2009年12月16日(読売新聞、日刊工業新聞)、12月20日(河北新報)

 空気から酸素のみを分離するセラミックス膜により、メタンなどの炭化水素ガスから水素を製造する技術を開発しました。膜の高強度化、長寿命化により、水素を必要とするさまざまな応用範囲に用途が拡大します。

  改質効率 起動時間 装置のサイズ
水蒸気改質
(従来技術)

優れた効率
(最新の水素分離膜型では80% HHV(注2)を超える)
×
1時間程度必要
×
吸熱反応のために反応容器に大面積を必要とする
(1 kWの定置型燃料電池で約19,000 cm3)
従来型部分
酸化改質
(空気利用)
(従来技術)
×
窒素が熱効率を低下させる

数分での起動可能

発熱反応のため小型化が可能
(水蒸気改質の1/10にすることが可能)
酸素透過膜型
改質
(純酸素利用)
(本技術)

純酸素利用により水蒸気改質と同等
(理論効率は水蒸気改質と同等で80% HHVを超える)

20分での起動を実証;将来的には数分での起動も可能

従来の部分酸化と同等
(改質器のみのサイズは220 cm3程度)
炭化水素からの水素製造技術に関する従来技術と本技術の比較

ポイント

 従来の技術である水蒸気改質(注1)で課題となっていた起動時間の短縮や小型化が、これまでの効率を維持したまま可能になります。メタン以外の炭化水素(液体または固体)からの水素製造や、純酸素による石炭のガス化、熱効率を向上させる酸素富化燃焼へ応用できます。

  1. 水蒸気改質と同等の効率:従来型部分酸化法は、純酸素が利用できれば、水蒸気改質と同等の効率になる可能性がありますが、空気から純酸素を製造するには余分なエネルギーと費用が必要となります。酸素透過膜を用いると、部分酸化が起こる反応器内で、余分なエネルギーを投入せずに、純酸素を分離して水素の製造に利用できるため、熱効率は水蒸気改質と同等になります。
  2. 高速起動性:発熱型反応器のため短時間で作動します。現在、室温から約20分での起動の実証実験に成功しています。
  3. 小型化:毎分10リットルの水素製造に必要な改質器のサイズは、220cm3程度となり、従来よりも小型化が可能になります。

成果の概要

 酸素透過膜は、膜の片側に空気、他方にメタンなどの炭化水素ガスを供給すると、酸素のみがイオンとして膜の中を透過し、メタンを水素と一酸化炭素からなる合成ガスに転換することができます。

 この酸素透過膜は、従来は800~1000℃の高温で、かつ、大きな酸素濃度勾配という条件下で作動していため、膜の耐久性と寿命に課題がありました。本研究では、酸素透過膜の劣化機構を解析して新規の膜材料を開発し、さらにデバイス構造も改善したため、650時間以上安定して水素を製造できるようにしました。

ブレイクスルーのポイント

 本研究では、酸素透過膜が劣化していくメカニズムを解明しました。耐久性向上の観点からは、金属イオンの拡散を抑制することが重要であり、触媒材料やその装着方法の最適化により長寿命化が達成されました。さらに、膜材料の高靭性化をジルコニウム(Zr)の添加により達成しました。この過程で、解析ツールとして、酸素透過膜内の酸素濃度分布や酸素流束分布を視覚化するシミュレーション技法も開発しました。

今後の展開

 現在、一般的な酸素透過膜は、十分な酸素透過性を発揮させるために、800~1000℃程度の高温領域で作動します。今後、さらに効率を改善し、応用範囲を拡大していくためには、作動温度の低温化と高温での耐久性能の向上の両面からの研究開発が必要と考えられます。

低温化のためには、より高い混合導電性を有する新規材料開発や、多孔質基板上への薄膜形成が有効と考えられます。また、高温作動での耐久性能の向上には、より金属イオン拡散の遅い新規材料開発が有効と期待されます。

これから応用展開の可能性を探索してみたい業界・企業

 酸素透過膜を用いた炭化水素からの水素製造は、水蒸気改質が困難な重質の液体燃料で、より優位性が発揮されるものと期待されます。また、発電分野や製鉄分野における二酸化炭素排出量抑制の観点からは、純酸素利用もしくは酸素富化燃焼技術が有望と考えられます。酸素透過膜をこれらの用途に適用することを現在検討中です。これらの技術に興味のある企業との連携を模索しています。

産業界へのアピール

 純酸素の効率的製造と利用は、炭化水素からの水素製造のみならず、多くの産業分野で二酸化炭素排出量を抑制するキーテクノロジーです。産学連携により、高性能酸素透過膜が予期されなかった新分野で広く活用されることを期待しています。

(注1)水蒸気改質(steam reforming)は、炭化水素や石炭から合成ガスを製造する方法で、化学反応は、CnHm + n H2O → n CO + (m/2 + n) H2、CO + H2O → CO2 + H2である。

(注2)HHV(Higher Heating Value、 高位発熱量または高発熱量)は、燃料が持っている発熱量を表示する条件で、燃料中の水分と燃焼によって生ずる水蒸気の凝縮熱(蒸発潜熱)を発熱量として含む。LHV(Lower Heating Value、低位発熱量)は、蒸発潜熱を加算しない。

研究成果図版

酸素透過膜の作動原理

酸素透過膜の作動原理

Zr添加による酸素透過膜の高靭性化

Zr添加による酸素透過膜の高靭性化

本研究の一部はNEDO産業技術研究助成事業により行われました。