産学連携
先進鉄鋼研究・教育センター[ARECS]

原教授インタビュー

原教授

先進鉄鋼研究・教育センターについて知能デバイス材料学専攻の原信義教授にお話を伺いました。

鉄鋼研究を次の世代に伝え、鉄鋼産業を支える人材を輩出したい。

鉄というのは我々人類の文化の基本です。しかし、産業としては鉄鋼は既に成熟しているとみなされています。そして研究も支援が得にくくなっています。若手が研究者として自立しなければならないため、支援を得易い分野に移ってしまう。鉄鋼関係の研究をする方が少なくなってくれば、鉄鋼に関する教育もできなくなってくる。そのような構図になりつつあります。

大学の使命の一つは産業界に必要とされる人材を育成して輩出していくということです。 工学研究科では世界でトップレベルの研究を通じて、学生に教育をし人材を輩出してきました。 鉄鋼産業でも人材はずっと必要です。 ですが、研究が持続できないと、若い人が育たない。若い人が育たないと教育も危機です。 人が欲しいという需要はあっても、人材を送り出せない。

これではいけないと。全国の大学を見ていても、材料系はどんどん縮小しています。幸い東北大学は、工学研究科、金属材料研究所、多元物質科学研究所に鉄鋼にかかわる研究をされている先生が現時点でたくさんおります。今のうちから日本の中心となれるように考えて研究・教育を行っていれば、日本の鉄鋼産業を支えられるようになる。これが、先進鉄鋼研究・教育センター設立の一番の背景です。

「グリーンスチール」をキーワードに、産学連携の研究を。

しかし、鉄鋼業は非常に多くのエネルギーを消費します。コークスを使って鉄鉱石を還元する過程で大量のCO2も発生する。環境に対する負荷も大きいのです。これからは環境にやさしい鉄を作る、そして使う方も優しい使い方をする、そういう意味で研究することが結構あるんですよ。私どもの目指す、製造プロセスでの環境負荷を最小とし、強度や耐久性などの性能・機能を最大に高めた新しい鉄鋼材料を「グリーンスチール」と呼んでいます。 ARECSはまず産業界の支援を得て立ち上げ、その中で「グリーンスチール」を一つのキーワードとして、研究と学生の教育を発展させながら、将来はそこに国の支援を導入したい。国家としてものづくり日本の基本となる鉄鋼業を支えるという戦略を作って欲しいのです。そうなれば、かなり長い期間にわたって基盤研究が続けられます。

また、大学が独立行政法人になり、今までより「社会貢献」が強調される時代になってきました。社会貢献の一つは、産学連携です。大学の持っている色々なシーズ(seeds)を育てて、産業界との協力を得て、商品として社会に輩出していく。大学だけではできません。大学全体としての新しいあり方にも関わっています。 ARECSは最初から産業界との連携を意識しています。

ARECSでの研究課題は企業からの提案に基づくものと、長期的な研究を必要とする基盤研究と大きく分けて二つあるのですが、研究の費用のうち二割を基盤研究にあてることにしています。これは若い先生に研究したいテーマの提案をしていただいて、研究費として使っていただく。基盤研究ですから、いますぐ役に立たなくてもいい、自由にできる研究です。その中から知的財産になるようなものが産まれれば理想です。こうして、若い人たちが鉄鋼もしくは周辺の材料、科学を研究できる環境をつくりたいんです。企業にも先生方にも理解していいただいて成り立っています。学生も基礎的な研究ですと取り組みやすいですから、結果として、学生にも鉄鋼関連の研究をしてもらえます。

企業の協力で学生の実践的な教育を行っています。

ARECSは「先進鉄鋼研究・教育センター」の名の示す通り、研究と教育、二本立てです。 教育という点では、ARECS協力企業の方々に大学院生を対象とした実践的な内容の講義をお願いしています。 また、インターンシップについては、短期間の実習的な内容よりは、ちょっとした研究ができるようなインターンシップに来て欲しいと会社側からも要望をいただいています。 普通の授業とは違う実践型の教育と、インターンシップで会社の中を見て、 自分の研究がどういう位置づけになるのか理解し、実践的な力をつけていく。 「産学連携による実践型人材育成事業—長期インターンシッププログラムの開発—(旧:派遣型高度人材育成協同プラン)」の目的とうまくマッチしたので、現在ARECSの人材育成の部分がブランチとしてそちらに分かれています。

会社では課題が明確になっています。「これを解決したい」というテーマがあって、どのように取り組めばいいか自分で考えて、そして解決の方策を提案して、終わる。非常に充実感が得られるのではないかと思います。大学の場合は、これを解決したら終わりというようにはなりづらいです。先生の研究の一旦を担う学生は、自分の研究の位置づけがわかりにくい。インターンシップでの経験を通して、会社で応用的なことをやるためには大学でどういうことを学ぶ必要があるか、実感できるでしょう。何が必要かということを自覚して学ぶ、非常にいい機会ではないかと思います。

日本の今を支える鉄鋼、いろいろな分野に広がっていくでしょう。

やはり日本の工業を支えているのは鉄鋼です。特に自動車用の鋼材。今の車は車体の一つ一つが素晴らしく良くなっているんです。以前は錆びた車が走っていたりしましたがいまは滅多に見ません。車体に使っている表面処理鋼板が非常に良くなっているから。車体もできるだけ軽くして燃費をよくするために、強度の高い鉄鋼材料を使っている。昔はマフラーも腐食して穴があいたりしたものですが、今はほとんどそのようなことはない。マフラーがステンレスという耐食材料に変わったからです。全部鉄のおかげなんですよ。いい鉄を使っていい材料を作って。でもなかなか外からは見えないんですよ。

これからは、今まで鉄を使用していない分野、例えば個人用の住宅への応用もあるかもしれません。もし百年持つ家を作ろうとしたら、やはり鉄でないといけないんです。他は木でも骨格を鉄にすれば、耐震性など強度的には圧倒的に優れています。鉄は木材と違って壊したら再利用できますよね。もちろん普通の鉄をそのまま使えば錆びますから、コストをかけず、環境負荷の少ない、長期耐久性をもつ、安価な材料を作っていければ、リサイクル・リユースという観点からも有用ですね。このように、グリーンスチールは「資源・エネルギー・環境問題」の解決に役立つものですから、研究も応用もますますの広がりが期待されます。

(平成19年1月25日取材)