研究内容

Material Flow Analysis

自動車リサイクルを介したレアメタル循環利用モデルとその影響評価

博士2年 大野 肇

研究背景

持続可能な社会構築に向け、資源の有効利用の必要性が世界的に指摘される(UNEP, 2010)一方、近年では中国などの急激な発展により様々な資源の消費量が増大している。その中で資源を持たない国である日本が今後も世界における競争力を失わずに発展していくためには戦略的な資源確保が必要とされる。しかし、都市鉱山(南條、1988)の考え方によれば、現在日本国内において用いられ廃棄されている製品に含まれている元素を鉱山としてみなした場合、日本は世界有数の資源大国であると言われており(NIMS, 2008)、資源確保としての廃棄物リサイクルの重要性が指摘されている。近年ではそのような資源のリサイクルポテンシャルの科学的定量法として物質フロー解析(Material Flow Analysis: MFA)研究が注目されている。MFAは分析対象となる物質が、どこに、どれだけ用いられているのかを明らかにするものであり、これまで様々な資源フロー解析に利用されている(Graedel et al, 2004, Daigo et al., 2009 他)。しかし、MFAは1統計データの正確性に大きく左右される、2産業間の関係を記述しきれない、3単なる情報でしかない、といった3つの大きな問題点を持っている。特に2と3に関しては、仮に大きなリサイクルポテンシャルを見出したとしてもそれをどういった産業で利用すれば良いのか、それがもたらす効果の規模はどの程度かといったことがMFAの結果のみではわからないため、大きな弱点と言える。そこで本研究では、これらの弱点を補うべく、これまでのMFAに国の家計簿とも呼ばれる産業連関表と廃棄物処理の考え方を取り入れた廃棄物産業連関MFA(Waste input output-MFA: WIO-MFA)(Nakamura et al., 2007) を用いて、日本国内の廃棄物からの資源回収ポテンシャルとそれらの循環利用による経済的及び環境的影響評価を行う。

研究方法(WIO-MFA)

WIO-MFAの基となる産業連関表は総務省が発行する日本国内の産業活動を網羅した行列形式の統計情報であり、約500部門に上る国内産業間の取引を金額ベースで収支が満足された状態で記述されている。WIO-MFAではこの一部、特に資源に関わる部門の数値を物量に変換することで、物質収支を満足したフローの記述が可能である。また、経済学の分野では産業連関表を用いた経済波及効果の分析(Input Output Analysis: IOA)が研究されており、産業構造や需要の変化によって起こる全体への影響を分析することが可能である。これらの特徴によりWIO-MFAはMFAが持つ3つの問題を解決している。更に、IOAを応用した製品組成行列の計算により、従来のMFAでは外生的に与えなければならなかった製品中の物質量をむしろ結果として導く事が出来、値の代表性が問われる従来のMFAに対して大きなアドバンテージを持っている。加えて、産業間の繋がりが詳細に記述されているため、物質がどのような経路を辿って製品に含まれたのかを遡及的に分析することも可能である。

本研究の位置づけ

本研究では、2005年版IO表を元に、分析対象を産業のビタミンと呼ばれ現在の産業に欠かすことの出来ないレアメタルに設定し、分析に用いる行列を拡張する。WIO-MFAの先行研究としてはベースメタル(Nakamura et al., 2007, 2010)、プラスチック(Nakamura et al., 2009) 、国際貿易(Nakajima et al., 2011)について行われている。これらの分析は製品組成の分析結果から、対象物質の最終需要の形態や行き先について解析を行っている。本研究ではそれに加え廃棄物中に含まれるレアメタルが、リサイクルを通してどのように再び社会へ戻って来るのかを1つのモデルとして分析し、現在の資源利用実態の評価及びより効率的な循環構造の構築に向けた解析を行う。

自動車リサイクルを介したレアメタル循環利用モデルとその影響評価
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